富士詣り (ふじまいり)
●講中で富士に詣ります。富士山信仰もあったわけですから、江戸から多くの人々が行かれたのでしょう。今ではスバルラインなどがあってバスで簡単に五合目まで行くことが出来ますが、当時は裾野から歩いて昇っていくわけですから、さぞや大変だったことでしょう。
先達さん、途中まで昇ると一行のものを脅かし始めます。
「五戒を破った者は天狗が出てきて罰せられる。股をさかれたりするぞ。」とね。「物を盗む」「姦淫を行う」などの罪を犯すと罰を受けるというわけですよ。そんなことを言われるとね。誰しも一つや二つ覚えはあるわけですね。「時そば」ならぬ、寿司の代金を誤魔化したり、湯屋で下駄をわざと履き違えて帰ってくるなどね。一行の皆さん少なからず怯えてきますよ。特に初めて加わった人などはなおされですね。信じていますから。
その中の男で、人のかみさんとよろしくやったという人物がいましてねぇ。事のほか怯えておりますようで。
「おいおい。どうしたんだよ。言ってみな。」「姦淫てやつをやりました。」「ほお、おだやかじゃないねぇ。懺悔しないと、股を裂かれるよ。」「言いますよ。湯に行ってね。出ると丁度女湯から年増がでてきたんですよ。湯上りの女てのは色っぽいじゃないですか。声をかけてねぇ。送っていくことにしたんですよ。」「へぇ。そいでどうしたんだい。」「家に着くと旦那が居たんで、そのまま帰ってきたんですがね。二、三日してから行ってみると、旦那は留守でしてあがってらっしゃいてんで、洗濯物を洗ったり、茶碗や皿を洗ったり、掃除をしたり、いろいろ手伝ってねぇ。」「働いたねこりゃもう。魂胆あるんだろ?」「終ると、かみさんがね。用意したものがあるから食べてってんでね。向かい合っているうちに、かみさんの膝をつねったりしてると、かみさんもこっちの膝をつねってくるんでねぇ。」
「おいおい。尋常じゃないよ。いったいどこのかみさんだい?そりゃぁ。」
「へぇ。先達さんとこの・・・・・・・・・」
(http://www.kakaa.or.jp/~fukasawa/fujimairi.htm より転載)
ところで、この噺「富士詣り」ですが、いろいろ、調べてみますと、この先、続きがあって、突然、青白くなった男が現れて、その男に向かって、先達さんが、
「この人は、初山(はつやま)で、お山に酔ったな。」
と言うと、その男が、
「酔ったかも知れねぇ。ちょうど、ここが、五合目だ。」
と、下げるパターンもあるらしいです。
富士山の五合目と、お酒を五合(ごんごう)を掛けたものです。
(青蛙房 「増補 落語事典(東大落語会 編)」より、抜粋)
でも、このサゲ、分かりにくいので、権太楼師匠の下げ方のほうが好きです。
それにしても、熊さんのいじらしさ(?!)と、先達さんの早く続きを聞きたいという思いの、その空回りの演出が、秀逸でした。
確かに、笑いは少ない噺でしたが、たまには、こんな噺もいいかなっ。
(http://raku5kobanashi.seesaa.net/article/180167456.html より転載)
ニコニコ動画にて