包丁(ほうちょう)
●居候になっていた先の亭主がぽっくり死んで、うまく後釜に納まった常。
前の亭主が相当の小金をため込んでいたので、それ以来、五円や十円の小遣いには不自由せず、着物までそっくりちょうだいして羽振りよくやっていたが、いざ金ができると色欲の虫が顔を出し、浅草新道の清元の師匠といつしかいい仲になった。
だんだん老けてきた二十四、五になる女房・静と比べ、年は十九、あくぬけて色っぽい師匠に惚れてしまったので、こうなるとお決まりで、女房がじゃまになってくる。
どうにかしてたたき出し、財産全部をふんだくって師匠といっしょになりたいと考えているところに、ひょっこり現れたのが、昔の悪友の寅。
こちらの方はスカンピン。常は鰻をおごって寅に相談を持ちかけるが、その筋書きというのがものすごい。
亭主の自分がわざと留守している間に、寅が友達だと言ってずうずうしく入り込み、うまくかみさんをたらし込んで、今にも二人がしっぽり濡れるというころあいを見計らって、出刃包丁を持って踏み込み、「間男見つけた、重ねておいて四つにする」と言えば、もうどうにもならないだろう、という計略。
じゃまな女房を離縁の上、「洲崎や吉原に売れば水金引いても二、三百にはなるだろうが、年増なので品川や大千住で手取り八十円だろう。二人で山分けだ」と持ちかけたので、こうなると色と欲との二人連れ。寅は飛びつく。
当日。
新道で「貸夜具」をなりわいとする常の家。予定通り、寅が静をくどこうとするが、この女、聞かばこそで、やたらに頭をポカポカこづくものだから、寅はコブだらけ。閉口して、あろうことか、悪計の一切合切を白状してしまう。「まあ、なんて奴だろう。もうあいつには愛想が尽きましたから、寅さん、おまえさん、こんなおばあさんでよければ、あたしを女房にしておくれでないか」「よーし、そうと決まったら、野郎、表へ引きずり出して」
瓢箪から駒。
寅がすっかり寝返って、二人で今度は本当にしっぽりと差しつ差されつ酒を飲んでいるところへ、台本が差し替えられているとも知らない常さん、「間男見つけた」と、威勢よく踏み込んだとたん「ふん、出ていくのはおまえだよ」したたかにぶんなぐられ、シャツ一枚で表に放り出された。
やっと起き上がると「ひでえことしやがる。サア、出刃を返せ」
「なんだ、まだいやがった。切るなら切ってみろ」
「横丁の魚屋へ返してくるんだい」
(http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2009/06/post-5945.html より転載)
41年生まれの談春師匠は自分より落語とともに生きてきた客席(耳)に向かって大変演ずることが難しいといわれる噺「包丁」をもってきた(カックイイ)。
噺の筋書きだけ読むと色恋ドタバタ噺でござる、だから技量がないと崩れる。
師匠の談志さんが「オレよりうめぇや」と言ったくらいだから
談春師匠の「包丁」をぜひ一生のうち1回はどこが聴いてほしい・・エビバデ。
(http://taxirobin.exblog.jp/7683574/ より転載)