包丁(ほうちょう)
●久治と呼ばれる兄貴に呼ばれた、弟分の寅んべーは風采が上がらない。兄貴は清元の師匠をしている”おあき”さんに面倒をみてもらっている。鰻をご馳走してもらって、ノロケを聞くと、儲けさすという。
兄貴は清元の師匠も良いが、他に若い女が出来たので、芝居を打ってほしいという。
「俺の家に行って、兄貴が帰ってくるまで待たして欲しいと言って、上がり込む。酒は出すような女でないから、お土産だと言って1本下げていって、湯飲みを借りて飲み始め、ツマミは出さないだろうから、鼠入らずの右側の上から2段目に佃煮が入っているからそれで飲ってくれ。香こが台所のあげ板の3枚目を開けるとヌカ漬けのキウリが入っているから、それで飲んでくれ」、「初めて行った家で香こを出すのはおかしくないか」、「そんなことは気にしないで、3杯ぐらい飲んだら女の袖を引いてその気にさせたところで、俺が出刃包丁を持ってガラッと入っていく。啖呵を切って畳に出刃包丁をさしている間に、お前はズラかってしまい、その後に女を地方に売り飛ばしてしまう。その金を二人で山分けにする。どうだ!」。
その足で、兄貴の家に乗り込んだ。当然いないので上がって待つことになった。お茶を入れるからと言うので、持参の酒の封を切った。肴がないと言うので鼠入らずから佃煮を出した。「旨いね。鮒佐の佃煮は、やはり兄貴は口がおごっている」。 師匠に勧めたが、取り付くしまが無かった。漬物を所望したが頭から断られたので自分で出した。師匠はビックリしていたが、細かく刻んでまた飲み始めた。
歌を唄いながら、師匠に手を伸ばすが、身持ちの堅い師匠にピシャリと叩かれたが、それに懲りずに手を出したらドスンと芯まで響くほど叩かれた。「ヤナ男だよ。酒を飲んでいるから我慢をしてたら、つけあがって。ダボハゼみたいな顔をして、女を口説く面か。ブルドック」。寅さんも切れて、一部始終の経緯をぶちまけてしまった。「佃煮や香この場所が分かるのは教わって来たからだ」。
師匠は事情が飲み込めたので、「あいつが来たら追い出すから、アンタも加勢してください。女の口から言うのもなんですが、嫌でなかったら私と一緒になって下さい」。「そんなこと言ったってダメだよ、さっきダボハゼって言ったじゃないか」、「それは事情が分からなかったからで、あいつの為に上から下まで揃えてやって、世話もしたのに売り払うなんて、そんな男に愛想が尽きた」。「そ~ですとも。だいたいあいつは良くない」。 (良くないのはお前もだろ~)。
「新しい着物を作ってあるから着替えてください。お酒もあるし。お刺身も出しますから」。気持ちよく飲んでいるとこに、久治が覗きに来て「あいつはお芝居がうめ~や。あんな堅い女に酌をさせて」。
ガラッと開けて、「やいやい。亭主の面に泥を塗りやがって」、「だめだダメだ。ネタは割れているんだから」。
おあきさんはさんざん久治に毒付いて追い出してしまった。
二人で飲み始めたが、格子をガラッと開けて、また久治が戻ってきた。
「出刃包丁を出せ!」。
「(親分の風格で)誰かに知恵でも付けられて来たのか。お前が悪巧みするから話がひっくり返ってしまったんだ。(おあきさんに)いいから、包丁出してやれ。久治、四つにでも切ろうと言うのか」。
「いや、魚屋に返しに行くんだ」。
(http://ginjo.fc2web.com/138houtyou/houtyo.htm より転載)
戦後では六代目三遊亭円生、五代目古今亭志ん生の二名人が得意としました。
本来は音曲噺で、円生は橘家橘園という音曲師に習っています。
現在、速記・音源ともほとんど円生のもので、残念ながら志ん生のはありません。
円生からは門下の円楽、故・円彌、円窓らに継承。
(http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2009/06/post-5945.html より転載)
CDにて