居酒屋(いざかや)
●酒は飲むがちっとも肴をとらない客に、生真面目な小僧がしきりに肴を進める。 「何が出来るんだい?」、「出来ますものは汁貝柱鱈昆布鮟鱇のようなもの、鰤にお芋に酢ダコでございます、へィィィー」。おもしろいな、その「ピー」ってのもらおうか。「これは出来ません」「じゃ ようなものっての、くれよ」「それも出来ません」「何でも出来るって言ったじゃないか、出来ねえものは言うなよ」。 「壁に貼ってあるものはみんな出来ます」「そうか、じゃ クチ上っての一人前」「あれは口上ですよ、その次からが肴です」「じゃ トセウケ一人前」「トセウケ? あっ あれは『とせう汁』です、けじゃありません汁です、濁りを打って『どぜう汁』です、いろはに濁りが付いたんです」。 「おめぇ 物知りだな じゃ「い」に打ってみろ」「い・・・」じゃ「ろ」は?、「お客さん打てないものばかり言うんですもの」「ざまぁみやがれ。 おめえの顔の真ん中にあるのは『ばな』か濁りが打ってあるぞ」「これ ホクロですよ」。 「棚の上にある赤いのは何だ」「蛸です」「生きてるのか」「死んでます」「えーッ いつ死んだんだ、チットモ知らなかったぞ」「どうして赤いんだ」「茹でたからです、蛸でも海老でも、赤いものはみんな茹でたんです」「ふうん 猿の尻は誰が茹でたんだ」「あれは茹でませんよ」。 「大きな魚がぶら下がってるな」「鮟鱇です 鮟鱇鍋はいかがですか」「いらないよ」「その傍で、真赤な顔して捩じり鉢巻きしてるのはなんだ」「うちの旦那さんです」「それを一人前持ってこい」。
(http://ninhao.cocolog-nifty.com/httpninhaococologniftycom/2009/02/post-8335.html より転載)
本来、続編の「ずっこけ」とともに、「両国八景」という長い噺の一部だったものを、3代目三遊亭金馬が一席の噺として独立させた。
金馬の他にも初代昔々亭桃太郎や7代目春風亭柳枝などが手がけているが、やはり金馬の名調子の前には影の薄いものだった。
これといったストーリーもなく、ただただ酔っ払いが小僧さんをからかうだけというこの話が、現代まで続く人気噺となったのはひとえに三代目金馬の功績といえるだろう。
特に、独特の抑揚で「できますものはけんちんおしたし」と早口でお品書きを読み上げ、かん高く「へーい」と最後に付ける小僧の口調が大うけだったらしい。
(http://wpedia.goo.ne.jp/wiki/%E5%B1%85%E9%85%92%E5%B1%8B_%28%E8%90%BD%E8%AA%9E%29 より転載)
CDマガジン「落語 昭和の名人」にて