品川心中(しながわしんじゅう)
●品川の白木屋という見世でずっと板頭(いたがしら=筆頭女郎)を張ってきたお染。寄る年波(?)には勝てず、板頭とは名ばかり。次第に客も減り、目前に迫る紋日のために必要な四十両を用立ててくれそうなパトロンもない。勝気な女だけに、恥をかくくらいならいっそ死んでしまおうと決心したが、一人より二人の方が、心中と浮名が立ち、死に花が咲くから、適当な道連れはいないかとなじみ帳を調べると、目に止まったのが神田の貸本屋の金蔵(きんぞう)。独り者だし馬鹿で大食らいで助平で欲張り。あんな奴ァ殺した方が世のためと、「これにきーめた」。勝手に決められちまった。
さっそく金蔵に、身の上の相談事があるから、ぜひぜひ来てほしいという手紙がいく。お染に岡惚れしている金蔵は、手紙を押しいただくと喜んで品川にすっ飛んでくる。ところが、当のお染が廻しに出たままなかなか帰らず、金蔵がふてくされて寝たふりをしていると、いつの間にか戻ってきたお染、なんと自分の遺書を認めているので仰天。家にあるもの一切合切たたき売っても、金蔵にこしらえられる金はせいぜい一両がいいとこ。どうにもならないというので、つねづね年季が明けたら夫婦になると言っている手前、つい、一緒に死んでやると言ってしまった。お染はしてやったりと大喜びで、早速明日の晩決行と決まる。
この世の名残と、お染がその晩張り切ってサービスしたため、金蔵はもうフラフラになり、帰ると、二人分の死装束の白無垢と安い脇差しを買う。世話になっている出入りの親分の家にこの世のいとま乞い。まさか心中しますとは言えないから、西の方に出かけて帰ってくるのは盆の十三日とか、わけのわからないことを言って、間抜けなことに肝心の脇差しを忘れていってしまう。その晩は、勘定は六道の辻まで取りにこいとばかり、金蔵のみ放題の食い放題。あげく、酔いつぶれて寝込んでしまった。その馬鹿面の寝顔を見て、お染はこんな野郎と冥土の道行きをしなければならないかと思うとつくづく情けなくなるが、選んだ以上どうしようもない。たたき起こして、用意のカミソリで片を付けようとするが、気の小さい金蔵、いざとなるとブルブル震えてどうにもならない。じゃ、おまえさん、いっしょに死ぬというのはウソだったんだね、そんな不実な人なら、あたしは死んだ後、七日たたないうちに取り殺してやると脅し、引きづるように品川の浜へ。おまえばかりを殺しゃあしない、南無阿弥陀仏と金蔵を突き落として、続いてお染も飛び込もうとすると、気配に気づいた若い者が抱き留める。
「待った。お染さん、悪い料簡を起こしちゃいけねえ。たった今、山の御前が五十両届けてくれなすって、おまえさんの喜ぶ顔が見たいとお待ちかねだ」「あーら……でももう遅いよ。金さんが先に……」「金さん? 貸本屋の金蔵ですかい? あんなもんならようがす」
金が整ったと知ると、お染は死ぬのが馬鹿馬鹿しくなり、浜に向かって、「ねえ金ちゃん、こういうわけで、あたしゃ少し死ぬのを見合わせるわ。人間一度は死ぬから、いずれあの世でお目に掛かりますから。それでは長々失礼」失礼な奴もあるもの。
金蔵、飛び込んだところが遠浅だったため助かったが、おかげで若い衆とお染の話を海の中で聞き、さあ怒るまいことか。「こんちくしょう、あのあまァ、どうするか見てやがれ」
やっとの思いで浜に上がったが、髪はザンバラ、何かで切ったのか、顔面は血と泥がこびりつき、着物はぐっしょり。まさに亡者のような姿で、ふらふらになって親分の家へ。ちょうどその時、親分宅ではガラッポンと勝負事の真っ最中。戸口でガタリと音がしたので、すわ手入れだと大慌て。糠味噌の中に突っ込んで、なすの漬物を自分の金玉がもげたと勘違いする奴も出てさんざん。金蔵とわかって一同ひと安心。その中で一人だけ、泰然と座っている者がいる。「なんだ、みんなだらしがねえ。……伝兵衛さんを見ろ。さすがにお侍さんだ。びくともしねえで座っておいでた」
「いや、面目ない。とっくに腰が抜けております」
(http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2005/06/post_3922.html より転載)
「ひとり会」での談志は、「きょうは下まで、やろうかな」と言いながら、上で終わった。
賢明である。下は、それほど面白くないし、盛り上がらない。
(http://torun.blog.ocn.ne.jp/blog/2009/12/post_b1a5.html より転載)
演目は「品川心中」。本人曰く、いつも噺に現代のテーマを見出してやろうとしているが、今回は昔ながらの落語として、オーソドックスに演じているそうです。
しっかしこりゃーウマイ。ハツラツと若く、またオーソドックスに演じて快調な談志の凄味があります。映像を合わせて見ても、カタチがしっかりキマっています。このブログで志ん朝のCDを取り上げているものはほとんどが同じ1980年前後の録音ですが、改めて談志と志ん朝は双璧ですね。どうしてももう一回見たくなって、結局二回見てしまったんだけどやっぱりまたイイ。
心中の相談のシーンで心中を促すお染、それに対する金蔵、ふたりの演技。
地に戻るタイミング。
親分の演技。
品川の桟橋の情景描写。
親分宅でのドタバタ。
ウーム、本当にウマい。談志のCDはいくつも聞いたけど、改めて総当たりで聞いていってみようかなー。
(http://blog.livedoor.jp/no_go_tabi/archives/51661363.html より転載)
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