転宅(てんたく)
●妾宅から旦那が帰宅。お妾のお梅さんが見送りに行くと、その留守に泥棒が侵入してきた。この泥棒、旦那が帰りがけにお梅に五十円渡して帰ったのを聴きつけ、それを奪いにやって来たのだ。泥棒、まず座敷に上がりこみ・・・空腹に耐えかねお膳の残りを食べ始める。そこにお梅が入ってきて、物の見事に鉢合わせ。慌ててお決まりのセリフですごんで見せるが、お梅さんは驚かない。それどころか…。
「自分は元泥棒で、今の旦那にはとうに愛想が尽きているから、よかったら連れて逃げてよ」
泥棒の方が真っ白になってしまった。その上、五十円どころかこの家には私の貯蓄が千円ほどあるんだよと色仕掛けで迫られ、泥棒すっかり舞い上がってしまう。泥棒、でれでれになってとうとう結婚を約束。『夫婦約束をしたんだから、亭主の物は女房の物』と言われ、メロメロの泥棒はなけなしの二十円を差し出してしまった。気が大きくなった泥棒は『今夜は泊まっていく』と言い出すが、お梅さんに止められてしまう。「二階に用心棒がいるから今は駄目。明日のお昼ごろ来てね。合図に三味線でも弾くから」
さて、その翌日。無名の大衆を装い、ウキウキの泥棒が妾宅にやってくると妾宅は空き家になっていた。慌てて近所の煙草屋に聞くと。「あの家には、大変な珍談がありましてな。昨夜から笑いが止まらないんですよ」何でも、夕べ押し入ってきた泥棒を舌先三寸で騙し、20円も巻き上げた後たたき出したと言うのだ。しかも、その後旦那に相談すると、後が怖いと言う事で泥棒から巻き上げた金は警察に届け、今朝方早くに転宅(引っ越し)したんだとか・・・。
「えっ、引っ越したんですか? あのお梅って言う女、一体どんな奴なんでしたっけ・・・?」
「どんなって、お梅は元義太夫の師匠ですけど」
「義太夫の師匠? ギェー、見事に騙られたァ!」
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%A2%E5%AE%85より転載)
「転宅」 三代目三遊亭金馬 (27)
間抜けな男がだまされて、翌日行ってみると引っ越した後という設定は、圓生師匠が得意にした「なめる」などと同じだし、種明かしするのもタバコ屋という点でも同じである。
泥棒に入られてもあわてず騒がず、話をあわせながらうまく誘導する鉄火な妾の話術は見事である。「なめる」と違ってもともとそういう作戦であったわけではないから、とっさの機転が際立っているといえる。この種の噺の傑作だと思う。
(http://blogs.yahoo.co.jp/cavan_club1954/53749607.html より転載)
お茶汲み(おちゃくみ)
●吉原の安大国(やすだいこく)という店に初会で上がった男を見た田毎(たごと)という女郎がいきなり悲鳴を上げた。聞けば、駆け落ちをした男の病気を治そうと、金のためにこんな世界に身を沈めたが男は死んでしまったという身の上。その男とそっくりだったので思わず声を上げたのだという。年季があけたら一緒になりたいと泣くのを見ると、目のふちにさっきまで無かった泣きぼくろが出来ている。湯飲みのお茶を目になすっていたので茶殻が付いたのだ。
「いやあ、面白かった」という話を聞いた男、その店に出掛けて行くと、女を見たとたんに悲鳴を上げ、駆け落ちをした女が身を売ってくれたが、病気で死んでしまった……と女のお株を奪ってしまう。
「どうか年季があけたら一緒になっておくれ……おい、どこへ行くんだい」
「ちょっとお待ち。今お茶を入れてあげるから」
(http://meisakurakugo.web.fc2.com/rakugo/05-o/0555ochakumi.htmより転載)
歌丸さんの廓話です。線が細いというのもあると思いますが、歌丸さんの女性の仕草などの表現は巧いなぁと思います。昔圓生今歌丸と言うと言い過ぎかもしれませんが。
「お茶汲み」は、志ん朝師に言わせるとあまり面白みのない廓噺だそうだが、実家が横浜の遊郭である歌丸師の高座では情景描写や人物造形が生き生きとしてくる。
(http://sharakusai.wordpress.com/2008/11/18/%E6%A1%82%E6%AD%8C%E4%B8%B8%E3%80%8C%E8%B3%AA%E5%B1%8B%E8%94%B5%E3%80%8D/より転載)