富久(とみきゅう)
●浅草阿倍川町に住む、酒癖が悪くて贔屓(ひいき)のお客さんをことごとくしくじって、年の瀬を迎えた幇間の久蔵は、たまたま買った富札「松の百十番」、大神宮のお宮にお札を納めて、千両当たったら、ああする、こうすると、考えながら寝入ってしまう。
夜半日本橋横山町の元の旦那越後屋さんが火事だという。急いで駆けつけると、出入りを許され力仕事を手伝うが、ろくな手伝いもできないで居ると、火事は消えて一安心。見舞い客の手伝いをしながら、主人の許しを得て一杯やっていると、疲れも出て寝入ってしまう。また半鐘が鳴り、聞くと、久蔵の住まい安倍川町だという。
急いで戻ると、長屋は丸焼け。ガッカリして横山町に戻って居候をしている。旦那の好意で元のお客さん回りを始めるが、深川八幡で興行される富の当日、見事千両富に当たる。
しかし、富札が無くては一文も貰えないと分かると、気落ちして安倍川町に戻ってくる。そこで鳶の頭に会い、大神宮さんの神棚を火事場から持ち出したという。気が触れたようになりながら神棚を開けると、富札がそこに無事有った。無礼を頭に詫びて、いきさつを話すと、
頭は「この暮れに千両、おめでたいな~、おい、久さん、どうするぃ」、
「へぇ、これも大神宮様のお陰でございます。ご近所のお祓い(=お払い)をいたします」。
(http://ginjo.fc2web.com/013tomikyu/tomi.htm より転載)
文楽はすぐれた描写力で冬の夜の寒さと人情の温かさを的確に描写し、この噺を押しも押されもせぬ十八番にまで練り上げた。もっとも当初は落語研究会で初演すると予告しながら「練り直しが不十分」という理由で何度も延期したので、評論家の安藤鶴夫に「文楽は今日も富休」と揶揄されていた。
文楽はこの噺の火事見舞いに来る客の名前を、高座で使うハンカチの中に書いて覗きながら演じていた。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%8C%E4%B9%85 より転載)