大工調べ(だいくしらべ)
●「おう、いるか」
「あぁ、棟梁」
「なんだい、ぼんやりして。まぁ、いいや。明日から番町の方の屋敷の仕事が入ったんでな、今日のうちに道具箱を屋敷の方に持っていて、明日は手ぶらで行こうと思うんだ。与太の分も、うちの若い者に持っていかせるから、用意しておいてくれよ」
「それは困ったなぁ。いえ、別にほかに仕事があるんじゃないんだけど、店賃の代わりに大屋さんに道具箱もっていかれてしまって」
「まったく、何をやってんだよ。で、店賃はいくらためてんだ。1両2分と800文だ? えらくためたなぁ。まぁ、いいや。ここに1両と2分あるから、持って行って、道具箱を返してもらってこい」
「800文足りませんけど」
「なに細かいこと言ってんだい。800文ぐらい、あとで持っていくからと言って、とりあえず道具箱返してもらってこい」
ところが、ちょっとした言葉のもつれから、大屋さんがへそを曲げて返してくれなくなったものだから、話はどんどん大きくなり、最後は裁判沙汰になります。
落ちは、大岡様が大屋をやり込めた後で、「さすが大工は棟梁(細工は流々)、調べ(仕上げ)はごろうじろ」
(http://homepage3.nifty.com/~tomikura/rakugo/t.html#DAIKUSHIRABE より転載)
志らくの「大工調べ」は棟梁だけではなく、大家、与太郎と三者三様の言い立てで、ひと味違った志らく流の江戸の風が吹いたような気がします。
…「あう」と奇声を発する棟梁の登場から「大工調べ」は始まりました。本日は、胃カメラの飲んだ時の「オエ、オエ」つながりで変な声をふんだんにサービスです。
棟梁が大家への店賃を立て替えてくれるというと、「なかなか良い心がけだな」とのたまう与太郎が可笑しい。
与太郎に「あの大家は大嫌い」と棟梁が言いますが、後で棟梁が大家のところに乗り込むと、大家が「棟梁と持ち上げられてつけあがりやがって。親父のこともお前も大嫌い」と言い放つ。2人の相性の悪さが根深いものにしてあります。
その棟梁に向けた大家の啖呵も小気味よく、物の道理が通っています。それを聞いて怒った棟梁の言い立ても、内容はちょっと支離滅裂だけど、勢いだけでたっぷりで客席から拍手が起こる。
最後は、どっちの味方かわからない与太郎の啖呵と、棟梁の言い立てだけではなく、3人の啖呵を楽しませるエンターテイメントに仕上げてくれました。
(http://rakumys.blog21.fc2.com/blog-entry-467.htmlより転載)
2席目が「大工調べ」。まくらのなかで「この噺は大家はまったく悪くない、大工の棟梁は江戸っ子のデフォルメだ」とハッキリ言ってました。こういうみんなが心の中で思っていることをきちんと口に出してくれるのは志らくさんならではですね。そういう演出家的な視点を聴いた上で「大工調べ」を聴くと、また新鮮な印象があります。
たとえば、大家が大工道具の入った箱をムリヤリもっていってしまったのではなく与太郎から渡したという設定とか、棟梁が「おれは大家が嫌いだからおまえ(与太郎)を一人で行かせたのに」というセリフとか、大家がキッパリと正論をしゃべり、棟梁を過剰なまでにけしかける演出など、すごい気を配っているのが伝わってきました。
(http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/101356/78391/12489689より転載)
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