らくだ (らくだ)
●長屋の嫌われ者で暴れん坊の「らくだ」がフグに当たって死んだ。最初に見つけた兄貴分は通りかかった屑屋を大家の家に使いに出して、通夜の為に酒と料理を要求するが断られる。それじゃとばかりに、嫌がる屑屋をこき使って、死人を担いで大家の前でかんかんのうを踊らせると大家はたまげて、酒と料理を差し出した。同じ手口で棺桶代わりに八百屋の菜漬け樽を手に入れる。オドオドしている屑屋に「清め」だからと酒を飲ませると強気に豹変して強面の兄貴分に指図を始めてた。
落合に知り合いの隠坊がいるから焼いて貰おうと二人で天秤棒を担いで辿り着いたら途中で落としたらしく死人がいない。誰でも構わねえと酔っ払って道端で寝ていた願人坊主を突っ込んで焼き始めたからたまらない。
坊主はびっくりして、
「あちら、ここは何処だ」
「焼き場だ、火屋だ」
「冷やでもいいからもう一杯」
(http://mengjian.blog104.fc2.com/blog-entry-29.html より転載)
実はこの酒盛りの場面は、大いに笑いが取れるところで、この日も、談志の怒る泣くの大熱演で場内、大爆笑の渦だったのだが、そんな中で談志は、力のある者に組み伏されて、息を潜めるようにして生きている、しがない屑屋の小市民的悲哀をどの噺家よりもリアルに描きながら、さらにそればかりか、ドロップアウトし誰構うことなく勝手に生きているように見える無法者の心底に本人にすら気付かれることなく張り付いている虚無をも一言で描き切ってしまったのだ。これは凄い。「らくだ」という演目の中で、生前のらくだその人の心の闇の部分にまで噺を深く掘り下げた噺家を私は当夜の談志の他に知らない。やはり談志恐るべし、である。
(http://kisegawa.blog6.fc2.com/?mode=m&no=348 より転載)
導入部分、落語の世界に入り込むところまでは談志自体ウロウロしてたけど、乗ってきた時のパワーはさすが常人ではない。
「芝浜」の時に感じた「しわがれ声」の談志が色っぽい女房に見える魔術は「らくだ」では同じ男の2人の会話、立場の強弱、気の強弱が移り変わる、酔いの進み具合に応じて形勢が逆転するところが最大の見せ場の噺、もちろん聴衆は重々承知で待ち構えているネタなのだがそんな先行きを忘れさせて、談志がある時は「屑屋」、ある時は「ヤクザ」そのものに見える。
空気が変わる。不思議なことに顔も変わる。
談志は自分の回りの空気を作り出す。密度が自在に変わっていく。
聴衆はその「間」に惹き込まれて目の前に居るのが「立川談志」であることを忘れる。
(http://ruminn.livedoor.biz/archives/50228655.html より転載)