高田馬場(たかだのばば)
●浅草の境内でガマの油売りの口上を聞いていた老侍が、二十年前の古傷にも効くかと問う。以前配下の奥方に懸想して、手込めにせんとしたところへ夫が戻り、これを切った。まずいと思って逃げたが、乳飲み子を抱いた奥方が投げた刀が背中に当たり、寒くなるとその古傷が痛む。名は岩淵伝内という。
やあ、めずらしや岩淵伝内、その折の乳飲み子とは拙者のことなり、親の仇、尋常に勝負。いや、今は所要の帰り道、役目を果たして明日改めて討たれよう、場所は高田馬場、時は巳の刻に、ということで双方が別れた。
本物の敵討ちが見られるとの噂が噂を呼び、翌日には高田馬場に大勢の見物人が集まった。待つ間に酒を飲む、甘味を食べる、茶を飲むと茶店は何処も大賑わい。いつまで待っても仇討ちが始まらない。ふと見ると、昨日の仇の侍が酒を飲んでいる。訳を聞いたら、仇討ちは人を集める芝居で茶店から売上の一部を貰う商売をしている。ガマの油売りは息子だ。
(http://mengjian.blog104.fc2.com/blog-entry-145.html より転載)
「きょうは誰やのん?」
ラジオから出囃子が聞こえたので、房江はそう訊いた。
「三遊亭金馬の『高田馬場』や」
伸仁は言って、ラジオに耳を近づけた。
「この人の『茶の湯』もおもしろいでェ」
(宮本 輝著「慈雨の音」より転載)
がまの油の口上のくだりでの、金馬の力強い“啖呵(たんか)芸”は圧巻の一語。
(http://www.febe.jp/product/20172 より転載)
ニコニコ動画にて