百年目 (ひゃくねんめ)
●船場のさる大店(おおだな)の番頭さんは、あれこれ口やかましく奉公人を叱っている。主人の信頼も厚いこのやり手の番頭さんも、実は根っからの遊び人だったりするわけで・・
奉公人には口やかましく、加えて遊びの「あ」の字も知らない堅物で通っているのは表の顔。今日は芸者をあげての舟遊びの約束がある日店の者に、あれこれ小言を言いながら得意先廻りに行くと嘘をついて外出する。しかし行き先は大川で屋形船を借り、芸者幇間(ほうかん=たいこ持ちのこと)をあげてどんちゃん騒ぎを洒落こむ。船は満開の桜とそれを愛でる人々でにぎわう桜ノ宮へ。
廻りの目を気にしながらの芸者遊びも、お酒が進めばそこは地が出てくるものでして・・
満開の桜見物で賑わう桜ノ宮で船を下りると、目隠しをして芸者を追い回す遊びを始める。番頭さんが捕まえた御仁は、何とお店の大旦那。「やあ、番頭どんかいな。」「これは大旦那はん。ご機嫌よろしゅう存じます。長らくご無沙汰をいたしました。つきましては、お家も繁盛と承り、おめでとうございます。」と、真っ青な顔で平伏する番頭。
豪いところを観られた・・と、茫然自失の番頭がーん左・・・さっさとお店に飛んで帰り、寝込んでしまう。
その晩、番頭の気苦労が続く。大旦那に謝ろうか?いっそ逃げてしまおうか?と、番頭一睡も出来ない。翌朝になり大旦那に呼ばれた番頭さん。叱責覚悟で大旦那の下に行くと、大旦那は穏やかな口調で普段の働きを誉め、わしも付き合うからこれからもどしどし遊べと言われる。
恐縮する番頭に大旦那が一言・・
「それはそうと、あのとき何で『長らくご無沙汰してます。』って言うたんや?」
「へぇ・・豪い所を大旦那に観られてしまい・・これが、百年目だと思いました。」
(http://www.nicovideo.jp/watch/sm9200103 より転載)
マクラで、商人(あきんど)の日常がどのようなものかの丁寧な解説があり、全体では63分と長めになりますが、その長さを感じさせない素晴らしさがあります。
登場人物が多く、店の小僧さんも何人も出てきますが、それをきちんと演じ分け、小僧さんと番頭さん、そして店の旦那では声を聞くだけでその風格の違いが伝わってきます。また、幇間など見たこともないのにその姿まで見えるような感じがします。芸者の女性の声も色っぽくて素晴らしい!この話の最大の聞かせどころは最後の旦那と番頭のやり取りですが、このやりとりを聞いていると、こういう噺は上手さだけではなく、人間が本当に成熟しないと演じられないものだと思います。こういう噺には今も昔もないのだと。
(六代目 三遊亭圓生 名演集 6 百年目 Amazonカスタマーレビューより転載)
ニコニコ動画にて