粗忽の釘(そこつのくぎ)
●粗忽な男が長屋に引っ越して来た。掃除をしたあと、箒を掛けるために釘を打ってくれと女房に頼まれ、長い瓦釘を壁に打ち込んでしまった。壁を通して隣家の箪笥にでも傷つけてちゃいけないから、隣に謝って来いと女房に指示されて謝りに出掛ける。
「壁に釘を打込んだので家具でも傷つけてないか、見てください」と問うが、「何の音もしなかったので問題ない、ところであなたの家はどちら?」「おっと、筋向こうだったから、釘が届くはずがないか」
改めて隣家に尋ねてみると、瓦釘が仏壇を突き抜けていた。ここで粗忽男がつぶやく
「ありゃりゃ、ここまで箒を掛けに来るのは不便なもんだ」「冗談じゃないよ、あなた」
家族構成を問われて、元の家に父親を置き忘れたことに気が付く。
「親を忘れるとは何ということか」
「親どころか、酒を飲むと我を忘れる」
(http://mengjian.blog104.fc2.com/blog-entry-36.htmlより転載)
現役真打シリーズを続けまして、私が大好きな噺家の一人である、瀧川鯉昇(たきがわ りしょう)師匠の「粗忽の釘」を紹介します。
鯉昇師匠は、朴訥(ぼくとつ)とした語り口で、派手さはないけれど、じわじわっと、笑いを醸し出す、独特の雰囲気の方です。
その特徴が、よぉく、現れているので、マクラを含めて、全部、筆記します。
(http://raku5kobanashi.seesaa.net/article/151913917.htmlより転載)
鯉昇さんのマクラは、いつもだいたい同じ流れです。登場して数秒は黙って観客の目を引きつけます。そして、淡々としたテンポで言葉遊びのような話が始まります。もちろん笑わせようとしているのですが、そのような様子は見せず、淡々と話が進むのです。そして、その言葉遊びの中で噺の筋に関して説明が必要な点がそれとなく説明されているのです。説明がましくなく、笑わせようと見せるわけでもなく、淡々とした言葉遊びの中で、会場を温めつつ説明も為されているというのが凄い。
「粗忽の釘」は、落語好きな人にはお馴染みで、粗忽者の男と、しっかり者のおかみさんによる引っ越しの噺です。本来はまず荷造りをしている様子が面白く語られて、それから新居に移ってからの話が展開します。しかし、鯉昇さんの「粗忽の釘」では荷造りの様子は完全にカット。すぐに新居のシーンから入ります。
そして最大のポイントは、新居に打った釘にかける物が、ほうきではなくて・・・。
(http://inoccu.net/blog/2010/11/05/192946.htmlより転載)