(「星野屋」は収録されていません)
星野屋(ほしのや)
●「ちょっと、寄席に行って来るよ」
なんて昔は、寄席をだしに、男共は女性の家に行っていたのだそうです。ここで、奥様が、
「行ってらっしゃい、噺家がおしろいをつけて待ってるんでしょ」
なんて、嫌みを言うと、男の方はきまりが悪いから、すねて怒ってしまって、けんかになります。これが、やきもちの焼き方が上手だと、
「ちょっと、寄席に行って来るよ」
「あら、あたくしも、この前から参りたいと思っていましたの。よければ、ご一緒させてください」
なんて言うと、男としても断れないわけですから、「はは、いいとも、おいで、おいで」と、本当に寄席に行くことになります。
ともあれ、男が別れ話を切り出しに、50両もの大金を持って女の家に行きます。ところが、話がこじれて、二人は心中することになります。
夜遅く、身投げをしようと吾妻橋に行き、どぶんと男が飛び込みます。しかし、一時の感情の高ぶりで死ぬと切り出したものの、女の方は恐くなって家に帰ってしまいます。
その夜。知人がやってきて、男がやってこなかったかと女に尋ねます。知らん顔を決め込もうとする女に、
「知らないならいいんだよ。ただね、今夜、うとうとしていたら、雨も降っていないのに、あたしの枕元にポタポタと水が滴り落ちる。なんだろうと思って、ふと上を見ると、あいつが恨めしそうな顔で、あたしに言うには、『一緒に死ぬと言うから、吾妻橋から身投げしたのに、あの女は帰ってしまった。あんな不実な女だとは知らなかった。これから、毎晩、あの女のところに化けて出て、取り殺してやる』こういうもんだからね、ちょっと気になって」
これを聞いて、女は恐くなって、髪を切ります。そこへ、死んだはずの男が、がらっと戸を開けて入ってきたから、女はびっくり。勝ち誇る男に、
「そんな髪なら、いくらでもあげるよ。それが本物の髪の毛だと思っているのかい。それは髢だよ。あんたは、50両で、カツラを買ったんだ」
「その金を使ってみろ。お前は、捕まって、磔台に上ることになるぞ。それは偽金だ」
「ちくしょう、どこまで企んでんだ。こんな金返すよ」
「ははは、本当に返しやがった。偽金なんて話は嘘だよ。これは本物だ」
「そうだと思って、3両くすねておいた」
(http://homepage3.nifty.com/~tomikura/rakugo/h.html#HOSINOYA より転載)
星野屋(ほしのや)と云う落語演目は、八代目 桂文楽の音源で親しみました。落語睦会時代の若い頃に文楽と共に睦の四天王と云われた六代目 春風亭柳橋が得意にしていた演目らしいのですが、私は柳橋の星野屋は聴いた事がありません。
・・・「品川心中」とよく似た顛末ですね。
・・・黒門町が「品川心中」を持ち根多にしなかったのは、この「星野屋」と根多が被るからだと思われます。
(http://blogs.yahoo.co.jp/yacup/61079218.html より転載)